どうやら自分を客観的に見るの苦手じゃね?と最近分かってきた。
他の人には適用されるすべての倫理が、私の中で私だけを例外にしてしまう。
二度も精神疾患を経験して、「適応障害が甘え」なんて他人に思うはずもない。そんなこと言ってる人がいたら両肩持って揺さぶってしまう。でも自分については、この期に及んで甘えなのではとずっと疑っていた。
それを是正したのが、私の好きなアニメのひとつ、BANANA FISHだった。
BANANA FISHは有名なので詳細は割愛するが、数年前にアニメ化したマンガだ。30年ほど前のマンガを、うまく現代ナイズドさせて違和感がないという制作陣の手腕が鬼だ。
舞台はアメリカ。
その美貌と優秀な頭脳ゆえに過酷な半生を送り、アングラ社会を強く生きる17歳にしてNYギャングのボス、アッシュ・リンクス。対して、日本からカメラマン助手としてやってきた、19歳で棒高跳び選手の大学生奥村英二。この二人の出会いから物語が始まる。
ここから先はネタバレを含むので、見たくない人は避けてほしい。
なお、すべて私の見解なので、あらゆる異論を認める。古語でいう、「何でも許せる人向け」の記事である。
アッシュと英二は、たった3行でもわかる通り、生い立ちが全く違う。
共通点は少年であるということくらいだ。
アッシュは、いろいろあって幼いころから地獄を見てきた。美貌、とびぬけた頭脳、身体能力、すべてを使って生きている。殺されそうになったこと、誰かを殺したことも一度や二度ではない。大切な人を失ったことも。周囲には尊敬され畏怖されているか、敵対視されているかのどちらかだ。
奥村英二こと英ちゃんは、日本の出雲に生まれた。命のやり取りとは無縁の人生で、それは日本人ならば普通のことだろう。銃に触ったのも、アッシュから貸してもらったのが初めてだった。自分を守るのに命を懸けたアッシュには感謝しており、対等な友情関係を築いていると言える。英ちゃんはギャングでもマフィアでもない。だからこそ、人としてのアッシュ自身に向き合い、隣にいる。寝起きの悪いアッシュを蹴飛ばして起こして部下たちの度肝を抜いていた。彼にとっては、アッシュ・リンクスは親友であり、だからこそアッシュも英ちゃんの前ではギャングのボスの顔をする必要はない。
当然のことだが、英ちゃんがアッシュの隣にいるために、アッシュの過ごしてきた地獄をすべて体験する必要はないし、アッシュもそんなこと願っちゃいない。
人には人の地獄がある。すべての人が自分の人生をつまびらかにしているわけはない。
楽しそうに笑っている人にも、辛いことがあるだろう。
幸せそうにしている人も、実は地獄の渦中にいるかもしれない。
そんなの分かっていたことだ。
パワハラで適応障害の症状がひどくなり始めたころ、動悸、不眠、頭にもやがかかる感じ、判断ができない、など様々な症状があり上司に相談した。上司はいったん受け止め、配置換えなどの処置をしてはくれたが(これは会社側に義務があるので)、裏では別の上司と「蟹木元気そうだけどね」と言っていたらしい。そんなの、迷惑が掛からないようにニコニコしながら工夫して仕事をするに決まっている。手遅れになったら嫌だから初期で相談したんだ。まだそのくらいの擬態はできる。泡吹いて血吐いて救急車で運ばれないと信じてもらえないか。
また、昔知り合いがメディアに出たことがある。結構いじられて、SNSで「こんなにいじるなんてひどい」とプチ炎上していたが、本人と会って話したら「いやーこの前の仕事すっごい楽しかった!!!辞めようかと思ってたけど超モチベになった!!!」と言っていた。結局本人にしか分かんないんだなと思った。外野は所詮外野なのだ。会ったこともない他人の心情を、状況証拠から妄想して批判しているに過ぎない。
ちょっと逸れるが、思いついたので書かせてほしい。
「人は基本自分の人生を肯定してほしいのだ」とどこかで聞いて納得したことがある。
やたらと結婚を進めてくる上司や先輩は全員既婚。私はこの生き方を今は貫きたいのだと言っても、結婚の良さをプレゼンしてくる。「そこまで思える人に出会えたのは幸せだね」と言ってくれた上司は一人しかいなかった。一度飲んだだけの元上司の知り合いの人である。
クリスマスにたまたまオタクの用事があって早く帰ろうとしていた時、未婚の先輩は明らかに不機嫌になっていた。やべ、と思って予定を話すと明らかに機嫌を直していた。
プレゼンしてくる彼らは、本当に満足しているのだろうか。
100%おせっかい善意の人と、こちらが正しいのよと声高に主張する踏み台を探している人がいるのだろう。踏まれたときはなんとなくわかるし、とても嫌な気持ちになる。自分だけで言っててくれよ。私を使わずに。
ただ、結婚するしないおすすめバトルの背景は、その人はその人の人生を肯定したいのだと思えば理解はできる(共感はするとは限らない)。
ただ、弊社役員のご歴々だけは、どんな地獄を過ごしてきたのか何の想像もつかない。どうしてそこまで権力にこだわって媚びへつらって不当行使をするのか。何がしたいのか、いつも一切理解が出来ない。
閑話休題であった。話を元に戻すと、アッシュのような優秀で孤高で数多の地獄を見て踏み越えてきた人がいたとして、その隣に立つのに自分はそうでなくてもいいということだ。英ちゃんは英ちゃんなりに、棒高跳びの不調や閉塞感と言った地獄を見てきたけど、それをアッシュと比べること自体がナンセンスなのだ。
エクセルの星取表みたいに、これとこれとこれに〇が付けば親友?そんな簡単なものじゃない。惹かれる何かがあればいい。かける言葉が見つからないことはあるかもしれないけれど、相手が愛してくれて、かけてくれた言葉を、正面から受け止めることは、英ちゃんにしかできないことだ。
たまたま、たまたまだ。今までの友人は、学校なり、趣味なり、共通点が多くあったから、そこから話が広がって惹かれあったり、文字通り同じ釜の飯を食べたことで芽生えた絆もあるだろう。
目線が近かったから、考えていることを察するのも、見ているものも似ていた。
だけど、必ずしもそうじゃなくてもいい。アッシュと英ちゃんの関係性に見出すのは、ただただ、人と人として関わることを当たり前にすることだ。
アッシュが薬を打たれて目が見えない。英ちゃんは経験したことがないだろう。だから、正確にその辛さは想像できない。
英ちゃんが銃弾をかすめて熱を出す。アッシュは経験したことがあるし、いまさらかすめても熱は出さないだろう。
でも、その残酷さの大小など問題ではなく、相手が苦しんでいれば心配する。それだけなんじゃないか。
アッシュが耐えられる苦しみと、英ちゃんが耐えられる苦しみは、ジャンルも程度も異なるだろう。
だから、倒れることを誰かと比較して恥じる必要はないんだ。
よく、「世の中には私よりもずっと苦しい人がたくさんいるのに、私ごときの症状で休職なんて申し訳なくて消えたくなる」、と思っていた。でもそうじゃない。
アッシュは優秀で経験値もこえてきた場数も違うから、どんな世界線でもある程度強いだろう。でもパンピの私は、呪いの城で戦ってこのザマだ。私は優秀じゃないし、経験値はないし、こえてきた場などない。それで丸腰で戦って、生還しただけで奇跡だ。
むしろどんだけ幸運ロールをたたき出したんだろうか。
ただ、神話生物の技に正気を奪われSAN激減の上、入院エンドというだけだ。普通の探索者なら、命があるだけいい。そういうハードなシナリオだった。私は私をギリギリで守った。鈍感くんにしては上出来じゃないか。でも体のSOSと主治医の言うことは、もっとちゃんと聞いた方が良いは良い。
パワハラ上司は、「メンタルの弱い蟹木が悪い」と要約した。「俺は悪くない、誤解だったんだよ」と。殴ってから殴った理由を説明して誤解だと解くなんてDV男かお前は。
馬鹿を言うなよ。令和の世に似つかわしくない、呪いの城で、呪いを受けたパンピだぞ。むしろずっと呪物の下にいて何か月も命を保った私の耐久力こそ称賛されるべきだろう。お前こそ、生きてることに感謝しな。法律があってよかったな。全治何か月だと思ってんの。身体の怪我なら相当な大けがだ。なぜこんなにも病むまでのことをされた相手が反抗しないと思っているのか。法律があって、まともな倫理観を持ってるからに決まってるだろ。ハンムラビ法典ならもっとよかったのに。なかったらとっくにさるかに合戦開幕だよ。
あとアメリカ式ならメンクリ通いになるのはお前のほうだぞ。ここが日本で、くだらねープライドを守れてよかったな。生き恥さらして生きるがいいさ。